第3回国際芸術島 台湾・馬祖ビエンナーレ "2025 Matsu Biennial"
Letters from Matsu(馬祖島來信)
本作品は、2025年に完成した狩野朋子と中坪多恵子による共同作品です。台湾の離島・馬祖(連江県)で開催されている第3回国際芸術島「馬祖ビエンナーレ(2025 Matsu Biennial)」に出展しました。本作品は、キュレーター洪榆橙氏が立ち上げた「軍人の手紙を集めるプロジェクト」の一環で、馬祖島の元軍事拠点である南竿「Nangan 53」にて、2025年9月5日~11月16日まで公開されました。

馬祖島は、台湾本島から200km以上離れており、当時は天候が荒れると1か月以上も船が出航できないこともある島でした。
Letters from Matsuは、過去の軍人たちの手紙を読み、その内容や思いに触れた来訪者が、自らの手紙を書きたくなるように計画しています。来場者が投函した手紙は、近い未来に届けられます。「手紙を書く」という行為の流れを空間としてデザインした本作品は、かつて軍事のために存在した場所を、人と人とをつなぐ平和の場へと変えていきます。
photo by:吳宙棋 Zhou-Qi WU
環境との対話
ここが軍事施設として使用されていた頃、ここにはキッチンやベッドが置かれていました。現在は、イベントなどを行う集会場としてリノベーションされていますが、空間には当時の記憶が残っています。たとえば、床に影を落とす木は、当時から変わらず立ち続けています。ピンク色の夕日も、毎日表情は変わっても、日々ここから見えたはずです。
駐屯していた若者たちの写真には、屋上で日差しを浴びながら横たわる姿や、段差に腰をかけて本を読む様子が残されています。彼らの身体は、馬祖の土地や気候に呼応し、環境を全身で感じ取っていたように見えます。私たちの作品も、かつてこの場所で若者たちが環境と対話していたように、来訪者が今日の馬祖の風や光を感じながら手紙を書く、そのような環境との対話の機会をつくろうとしています。
photo by:吳宙棋 Zhou-Qi WU
記憶の記録
軍人が駐留していた当時、数多くの手紙が書かれ、10日に1隻動けばよい船で、馬祖から台湾本島へ、そして台湾本島から馬祖へと届けられていました。家族への手紙、友人への手紙、恋人への手紙、それらを一通ずつ翻訳しながら読み進めると、馬祖という環境の中で若い軍人たちがどのような思いを抱えていたのかが浮かび上がってきます。たとえ彼らを知らなくても、その感情の揺らぎや、息づかいを共有することができます。ここでは、当時の手紙のアーカイブとしての冊子をつくり、来訪者に一冊ずつ配布しました。冊子には、軍人の手紙の中で特に印象的な言葉を抜粋して、台湾語・英語・日本語で納めています。
アクリルのポストは、二重構造になっていて、内側は来場者が書いたハガキを投函するスペース、外側は羊皮紙に転写された軍人の手紙や写真を展示するスペースになっています。
羊皮紙は、損傷がなければ、生涯にわたって残るといわれています。ここで使用した羊皮紙は、トルコの世界遺産ベルガマの職人によって一枚一枚手作りされたものです。一枚ごとに異なる素朴な質感で、表と裏も異なる表情を持つ羊皮紙は、乾燥したり湿気があると、かたち自体も変化していきます。日の光を受けると淡く透き通るので、転写された手紙や写真が重なり合って、過去の記憶の集積が空間をつくります。
来場者のハガキ約1500通は、芸術祭終了後に届けられました。
photo by:吳宙棋 Zhou-Qi WU
◆Team Member
アーティスト| 狩野朋子、中坪多恵子
キュレーション| 洪榆橙、林芳多、曹雅評、陳晶婕
木工| 山崎正夫
ポストカードデザイン| 三村望
スタンプロゴデザイン| 小山直基
スタンプロゴイラスト| 西野通広
羊皮紙| Halime Meltem Demirel, Mustafa Sinan Demirel
展示設営協力| 曽根田さくら、大井爾木
島民の椅子| 劉梅玉、曹秀明/陳文慶、王元嵩、林明粲、黃開洋、曹玉興/陳秋仙
軍用ベッド貸与| 陸軍馬祖地区支援営補給連
流木収集| 劉梅玉、仲向群、曹燕萍、謝明妤
輸送| 李政寰
協力| 黃琬雯、陳敬寶